ひろみバイクライフ

バイクに乗ってブンブン言わせます

好奇心についての自省

大学院に入り心機一転、新たに探検部に入部しました。部では年に1度、学祭で部誌を発行するのですが、そこで思ったことをつらつらと書いたのでここにも同じものを記録しておきます。

学部1回生の時から入りたいと思っていた探検部に今年ようやく入部できました。京都で迎える5回目の春のことです。

大学入学時、漠然と「知らない場所に行きたい」という願望を持っていた私は「だったら探検部だろ」という短絡的思考で門を叩いてはみたものの、土壇場で怖気付き、金やら時間やら、やらない理由を積み上げてそっと部室から立ち去りました。結果、この幼すぎる探検への願望は未熟なまま封じられて私の中に残り続け、3年の熟成期間を経た後真っ赤なBandit400V(愛称・ブンブン1号)へと具現化されました。

ブンブン1号購入から1年半弱、国内を12,000km走り回りました。今まで行ったことのない都道府県に行き、文化財や観光地、景勝地、科学館等様々な場所を訪問しました。未知の風景や文化、慣習、知識が五感を通じて自分の中に入ってくる感覚と、行きたいところにいつだって行けるという万能感が心地良くて仕方がなかったです。長距離ツーリングの成功体験を積み重ねながらまだ見ぬ景色と文化への期待が膨らむ日々でした。そんなある日、ぼんやり眺めていたネットニュース記事の中にこんなコメントを見つけました。

いわゆる異国趣味、エキゾチシズムといわれるような憧れの感覚は、それ自体が差別意識の反転ではあります。憧れそのものはむげに否定されるものではなく、異文化に対する関心の入り口として大切なもの。ですが、その入り口にとどまり続けて、多数派の価値観の中でエキゾチックなものをそう捉え続ける限り、優越意識からは逃れられず単に他者を消費するだけの振る舞いになってしまいます。(早稲田大学准教授・中村隆之氏)

この元記事は「世界からのサプライズ動画」を差別的行動と捉えるか否かについて論じたもので、コメントも異国趣味に対する文言ですが、国内においても同様のことが言えるのではないでしょうか。私は初めて読んだ時、入り口にとどまり続けていた自分の背中が蹴飛ばされたような感覚を抱きました。私が今まで楽しいと思っていた体験はすべて入り口に立つ客としての消費行動に過ぎない可能性がある、ということにようやく気づいたのです。楽しく旅行をすることは別に悪いことではありません。新しいものを知ること、日常から遠く離れた場所で呼吸をすること、エンターテイメントに身を投じること、すべて大切な経験です。しかし自分の中にある無意識の優越感を省み、消費の先にあるものを掴む努力をしなければ私はいつしか消費行動を繰り返すだけの何も持たぬ人間になってしまうことでしょう。それだけは避けたい、その先に進みたいと私は思います。なんてったって私は奨学金でバイクを買ったのですから。学びだってほしいのです。

最近は研究にしろ、何処かへ出かけるにしろ、そこで自分がどれほどの当事者性を持っているかについて考えます。奥へ足を踏み入れれば踏み入れるほど、当事者に近づけば近づくほど物事の複雑さは増します。一つの事象をしっかりと見ようとすれば必然的に関連する周辺知識が浮かび上がってくるものです。奥へ進むにつれて湧き出てくる大量の情報に足をとられ、入り口に突っ立っていた時には感じられなかった息苦しさに顔を歪めることもあるでしょう。しかし、それすらも受容できたら自分は知的好奇心を持っていると胸を張って言うことができるのではないかと思います。今はまだ、それを自分に問うて、その器が備わっているのか試している段階です。

入り口に立つ知的好奇心と、奥に進む知的好奇心。前者はやや娯楽的で後者は探究的と言える気がします。両者に良し悪しはなく、ただ好奇心はそういう二種類に類別されるというだけです。消費するだけの好奇心は嫌だと先ほどは言ってみたものの、私は落ち着きのない人間ですから、探究に疲れて遠くへ逃亡し、入り口にただボーッとたたずむこともしばしばあるでしょう。それはそれで息抜きとして良い、ただどちらにも偏りすぎず楽しく探究・探検をしていきたいものだと思います。

 

さて、思想を論じるだけで実際の活動内容について何も書いていなかったので今までバイクで訪問した中で個人的に好きだった場所を3つご紹介して締めとさせていただきます。

・竜串海岸(高知県土佐清水市)

「地質の博物館」とも呼ばれている奇勝海岸。剥き出しになった地層や迫力ある浸食・風化の痕跡を眺めながら小一時間ほどで回れる遊歩道がある。遊歩道と言いつつ足元が不安定でちょっとしたアスレチックのよう。

hiromi-darklie.hatenablog.com

・ヒスイ峡(新潟県糸魚川市)

糸魚川市街地から外れたところにある渓谷。谷を形作る明星山という山がとても険しくて綺麗。日本有数のロッククライミングのゲレンデとして有名らしい。石灰岩特有の荒々しい岩肌に圧倒される。あと新潟周辺の日本海側はお魚が美味しいので好きです。

hiromi-darklie.hatenablog.com

・伊勢志摩スカイライン(三重県伊勢市-鳥羽市)

景色がいい。伊勢から鳥羽に抜ける下り坂、伊勢湾とそこに浮かぶ島々を眺めながら風を切るのが気持ちよかった。鳥羽の沿岸部は基本的に快走路ばかりでおすすめだが、鹿との遭遇率が高いので注意。

 

そろそろバイクには厳しい季節になってきましたが、ブンブン1号のためにも引き続き適度に走り続けます。